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ハーバードの鼓膜復元PhonoGraft、商用開発

November, 5, 2021, Cambride--SEAS、Harvard’s Wyss InstituteとMass Eye and Earが開発した3DプリントグラフトがDesktop Healthにより商用化される。

ハーバード大学の橋渡し研究環境で6年の取り組みで進歩した生体模倣聴覚修復技術は、多くの専門分野にわたるチームの成果である。

PhonoGraftデバイスは、3Dプリントされた生体適合グラフトであり、損傷した鼓膜の修復のためにインプラントできる。その臨床開発が成功すると、世界で数100万の人々に影響を及ぼしている鼓膜穿孔に関連する痛み、ドレナージ、難聴をPhonoGraft技術は緩和する。

同技術は現在、商用開発に入っている。そのイノベーションを患者が利用できるようにするために、研究チームの起業家メンバーがスタートアップ企業、Beacon Bioを立ち上げた。同社は、ハーバード技術開発局(OTD)から独占ライセンスを受け、PhonoGraftイノベーションを商用化する。同社は、この夏にDesktop Metal Inc.に買収された。同社は、個人化医療向けに新しい3Dプリンティングとバイオメディカルアプリケーションに注目している。以前のSEAS院生、Nicole Blackが、Beacon BioのCEO。同氏は、Desktop MetalでバイオマテリアルとイノベーションVPとして引き続きそのプラットフォームを主導する。

鼓膜は、薄い膜で、耳に音を伝え、侵入する病原体に対する保護障壁として機能するように進化した。鼓膜は、爆発、外傷、慢性感染症で穴が空く。鼓膜の驚くべき自己回復力にもかかわらず、自己回復できないものも多く、再建鼓室形成術を必要とするものも多い。この場合、医者が患者から採った組織グラフトで穴を修復する。最新技術でさえ、手術の失敗は一般的であり、修正手術が必要になる。さらに、患者由来の組織グラフトは不完全な音響伝導能力である。これは、その構造が正常な鼓膜の構造と一致しないからである。

ハーバード大学SEASとMEE(Massachusetts Eye and Ear)の研究者が、生来の鼓膜組織の再生をガイドする新しい生体材料ベースのアプローチを利用してPhonoGraft技術を設計した。その3Dプリント構造は、正常な鼓膜の構造を模擬し、動物モデルで実証したように、組織の自己治癒特性を効果的に刺激する。チームは、PhonoGraft材料技術が、他の方法とは違い、恒久的な修復を可能にすると考えている。これは、第1に、鼓膜の音響伝導機械的特性とバリア機能がよく似ており、次にその特性と機能を回復するからである。

「耳外科医として、われわれはトラウマ、慢性的な感染症、あるいは爆風で損傷することで鼓膜に穿孔のある患者を普通に診ている。多くの場合、そうした患者は外科的介入を必要としている。それにより、間違いなく改善の余地がある」とMEE:研究者、耳科医、Remnschneiderはコメントしている。同氏は、ハーバード医科の講師。「2013年4月15日、Bostonマラソンの爆発で、多くの鼓膜穿孔をMEEで治療した。それは、実に触媒作用を及ぼす事件であった。これによってわれわれは、手術技術、移植材料や結果をより系統的に見るようになった。結果的に、われわれは改善された鼓膜移植材料を重視し、鼓膜修復後の治癒と聴覚改善の促進が目的だった」。

「過去10年で、耳の手術は非常に進歩した。重要な点は、内視鏡手術である。これによりわれわれは直接、外耳道から患者の処置ができるようになった。多くの場合、皮膚の切除や耳の背後に穴を置ける必要がない」(Kozin)。同氏は、MEEの耳科医、神経科医。HMSの准教授。「このアプローチは、Lewisラボのイノベーションとともに、いずれ鼓膜手術の結果を改善する可能性があるデバイスを推測、設計し、究極的に製造できるようにした」。

2014年、Lewisラボの3Dプリント法が耳の手術改善に利用できるかどかを研究した。その後、優れた機能、次世代グラフトの実現に乗り出した。

「自然の鼓膜は、ウエブ状放射、同心アーキテクチャであることがわかった時、われわれのラボでの早期の研究に立脚して、3Dクモの巣状の構造のプリンティングを初めて実証した」

生物模倣によりホイールとスポークを新たに考案
 鼓膜では、自然が複雑な形状と高度な機能的音響伝達組織を進化させた。その自然の「ホイール&スポーク」パタンは、まず、早期にスキャニング電子顕微鏡画像で確認された、そのパタンが人が感知する幅広い周波数スペクトルで音波に反応して振動し、その振動を、耳小骨として知られる微小な骨に伝える。

Blackは、シリコーンのような市販の材料でデバイスをプリントすることで問題を掘り下げた。それらの3Dプリント構造は鼓膜に似ているが、簡単に移植できること、セルサポート、音響伝導、生物分解特性の理想的な組合せを示さなかった。「ソフトな組織修復用に新しいインクを発明しなければならないことは明らかであった。狙いは、多様な長さでグラフトの構造制御に利用できる生物分解性、プログラマブルインク。究極的に、自然の鼓膜の音響伝導構造を備えた再生グラフトの移植を可能にすること。この目標を達成するために、3Dプリント中に調整できる合成ポリマベースのインクシステムを開発した」。

チームはまず、一連のラボテストで、死体の鼓膜と比較することで、その第2世代プリントグラフトの音響的、機械的特性を研究した。その成果に勇気づけられ、チームはPhonoGraftデバイスをチンチラ動物モデルの鼓膜への移植を繰り返した。チンチラの耳は、鼓膜サイズと聴覚範囲に関して人の耳によく似ている。

「最適化されたグラフトをチンチラの耳に移植後3ヶ月、われわれは、本当のユリイカの瞬間を迎えた。聴覚テストは、音の伝導の完全回復を示していた。この点は、大きなハードルだった。次に、内視鏡で外耳道を初めて覗いた。われわれが見たものは、新しい組織に置き換わりつつあるわれわれのグラフトのゴースト、放射状-円形パタンのきれいな再建鼓膜であった。鼓膜と血液サポートのための血管系の異なる細胞タイプが、パタン化されたポリマファイバに沿って整列しており、機能組織に組み込まれていた。また、再建鼓膜には、感染の兆候は全く見られなかった。
(詳細は、https://www.seas.harvard.edu)