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オンデマンド供給

August, 23, 2023--ローラ・グリフィス、サム・デイヴィス

積層造形(AM)がサプライチェーンに与える影響について、ローラ・グリフィス(Laura Griffiths)とサム・デイヴィス(Sam Davies)が解説する。
2020年以降、サプライチェーンの話題が積層造形業界を席巻している。これを受けて本誌では、多くの紙面とカンファレンスセッションを割いて、パンデミック関連の課題に対するソリューションとしてのAM技術の導入や、明らかに加速した導入がもたらす長期的影響を取り上げた。それから2年が経過したが、この話題はやはり最大の関心事で、新しい使用事例やデータが公開され、政府介入も行われて、消え去る気配は全くない。
2022年のTCT 3Sixtyカンファレンスでは、英ブリストル大学(University of Bristol)のジェニファー・ジョーンズ氏(Jennifer Johns)、米ボストンコンサルティンググループ社(Boston Consulting Group)のウィルデリッヒ・ハイシング氏(Wilderich Heising)、ノルウェーのエクイノール社(Equinor)のパンテア・カンシャガギ氏(Pantea Khan shaghaghi)が、サプライチェーンで起きているAM関連の「変革」についてディスカッションした。パンデミック禍のAMの利用は、AMの介入によってサプライチェーンの問題が解決される「夢のような理想郷の始まり」だとする発言もあったが、産業界、学術機関、エンドユーザーの間で共通して語られたのは、技術をいつどのように実装するかを理解して、その知識を適切な人々に周知させることの重要性だった。
「これをトップダウン式に導入しようとして、ここに15万SKUからなるカタログがある、さあ3D プリントでの製造を始めようと言っても、人々はついていけない」と、サプライチェーン及びオペレーショントランスフォーメーションの専門家で、「Super­charg3d: How 3D Printing Will Drive Your Supply Chain」の著者であるレン・パネット氏(Len Pannett)は、TCTに対して語った。「そして当然ながら、そのようなやり方で進めようとしても、バリューチェーンの他の部分の準備ができない。積層造形を利用するには、異なる調達方法や異なる契約方法が必要である。一般的に供給業者に対して実施するような、供給業者の審査が必要になる場合もある。得られる品質が、少なくとも従来の方法と同等になることを、エンジニアリングチームに納得させる必要もある」(パネット氏)。
「難しいのはエンジニアリングではなくデータ側であり、15万SKUのうちのどれに適用するのが理にかなっているかを、いかにして特定するかである。それには、単なる物理的な評価と物理的特性の評価をはるかに超える作業が必要だ。それは、サプライチェーンの特性を検討することをも意味する」と、パネット氏は述べた。
パネット氏は、サプライチェーンにおいてAMによって「実現可能な成果」を示すことに成功した企業の例として、ドイツ鉄道を挙げた。スペア部品製造にAMを採用する企業として、おそらく最も著名な企業の1社である同社は、社内の3Dプリント能力とサービスプロバイダーの両方を利用して、鉄道車両止めや点字が施された手すり標識といった鉄道関連のポリマー部品と金属部品を主に製造している。化粧品大手の仏ロレアル社(L’Oreal)もAMを利用しており、現在は米HP社の「Multi Jet Fusion」(MJF)を使用して、自社の包装生産ライン用の調整可能部品を製造しているが、HP社のGlobal Production Networkによってこの技術をさらに活用し、よりローカライズされた製造(地産地消)を実現する「真にグローバルなサプライチェーンを構築」することを計画している。
ロレアル社でトランスフォーメーション&リサイクリング科学担当責任者を務めるマシュー・フォレスター氏(Matthew Forrester)は、TCTに対して次のように語った。「積層造形は、特に他の技術とのハイブリッド構成で利用する場合に、サプライチェーンの変動に極めて迅速に反応する能力を、我々にもたらす。その能力を得たチームは、製造プロセスに関する詳細な知識を適用し、当社商品の特異性を組み入れて、さらには生産中に反復を行うことも可能で、その絶妙な組み合わせによって、最大限にアジャイルな工作機械が構築される」。

ニーズとの適合性
大手ブランドやメーカーのそうした事例は、有望性を示しているが、AM業界の外側では実際のところ、サプライチェーンに関連してAMはどの程度話題に上っているのだろうか。英デロイト社(Deloitte)でサプライチェーン及びオペレーションコンサルティング担当マネージングディレクターを務めるマーク・コッテリア氏(Mark Cotteleer)によると、「かなり話題になっている」という。
「官民両方の分野にわたる当社顧客の間で、その議論が急増していると言える状況を確認している」と、コッテリア氏はTCTに語った。「私の意見では、積層造形はデジタル分散型製造の典型的な例であり、その事実がこれに大いに関係している。つまり積層造形は、デジタル分散型製造のすべての興味深い属性、すなわち、モデルベースの企業に適合する能力や、供給源全体に対応して需要が発生した場所に需要が発生した時に製品を流通させる能力を集結して、デジタルスレッドやデジタルツインといった、高い注目を集める話題に関連するアイデアを取り込むことを可能にする。積層造形は、唯一のソリューションではない。多数のソリューションが存在し、当社は顧客に対し、ポートフォリオ的なアプローチをとることを推奨している」(コッテリア氏)。
確かに、積層造形は唯一のソリューションではなく、正しいソリューションでもない場合もある。スイートスポットを探し、ビジネスケースを作成し、TCT 3Sixtyのパネリストらも同意していたように、永続的な措置であれ、危機発生時の応急措置であれ、適用するタイミングを選択することが必要である。一時的にしか適用されない後者のケースは、サプライチェーンにとって代わる自信に満ちあふれているように見える業界にとっては、後ろ向きのように聞こえるかもしれないが、コッテリア氏によると、それこそがそのUSP(Unique Selling Proposition:独自の強み)だという。
「私が思うに、それは特長であり、欠陥ではない。積層造形のコアバリュープロポジション(CVP:主要価値提案)の1つは、需要が発生した時にその地理的場所で生産を増加することであり、必要な場所に必要な時に製品を供給できるかという点にあるからだ」とコッテリア氏は説明した。
同氏は、デロイト社がパンデミック禍にAmerica Makesとともに実施した、Advanced Manufacturing Crisis Production Response(AMCPR)のイニシアチブに言及した。それは、需要が具体化した時にその場所で生産を迅速に開始することのできる、デザインのデジタルストックとして機能するものだった。それは、単にコロナ関連の課題というものでもなく、イニシアチブの協力者らは、供給業者が操業を停止した場合や地震が発生した場合など、複数のシナリオを想定し、設計者から規制当局に至るまでのサプライチェーン全体にわたる多数の関係者を考慮に入れた。
デロイト社は9月、Manufacturers Allianceと共同で、従来の製造サプライチェーンが、コスト、効率、レジリエンスのバランスを図るためにどのように進化しているかを調査した、報告書を発行した。26ページに及ぶその文書の中で、「積層造形」という語は1度しか使われていないが、製造業者のサプライチェーンに最も大きな影響を与える要因を示すグラフに、上位3項目として挙げられた、出荷の遅れ(59%)、部品不足(56%)、輸送の遅れ(56%)は、AMがそのメリットをまさに発揮できる主要領域である。しかし、分散型でオンデマンドの製造を実現するという、積層造形の価値提案は明白だが、課題は残っている。
「品質、材料、コスト、再現性という、古くからの懸念のすべてがまだ存在する」と、コッテリア氏は述べた。「変化しているのは、懸念は存在するものの、多くの技術的ソリューションが続々と提供されて、状況が目まぐるしく変わるため、最新情報を常に確認し直さなければならないことだと思う。特にローエンド側では、かなり効率的に製品を流通できている事例が見られる。特殊な材料、非常に高額な機械、非常にハイエンドな用途を特徴とするハイエンド側では、より集中管理型の生産モデルがまだ採用されていて、実際のところ当社もそれを推奨している。しかしそこでも、場所の問題が解決されないだけで、時間の問題は解決できる」(コッテリア氏)。
興味深いことにデロイト社の報告書は、AMに言及するその唯一の箇所から、合併買収(M&A)というもう1つの業界トレンドへと話題が一気に展開する。報告書には、製造業界におけるM&A活動は活発で、2021年にはそうした取引が前年比で52%増加したとして、垂直統合の一部の事例は、サプライチェーンのレジリエンスを確保するための手段とみなすことができると記されている。例えば、航空宇宙や防衛分野を対象とした製造業者で、3Dプリント専用施設を最近開設した仏サフラン社(Safran)は2022年初頭に、金属AM粉末の供給業者である仏オベール&デュバル社(Aubert & Duval)の買収を完了し、金属粉末の供給を社内に取り込んだ。これは極端な例で、AMを自社のサプライチェーンに導入するために、必ずしも企業を丸ごと買収したり、高額なハードウエアを導入したりしなければならないわけではない。製造サービスを提供する企業は、オンデマンドで部品を調達するための代替手段を提供しており、パネット氏は、適切なQAプロセスが既に整備された状態で製品を製造してくれる供給業者を見つけることが、「非常に簡単かつ迅速に成功」するための方法だとしている。
蘭ハブズ社(Hubs)の米国3Dプリントサプリメントマネージャーを務めるジョシュア・パーカー氏(Joshua Parker)は、積層造形のメリットに関するさらに深い洞察を提供してくれた。ハブズ社はオンライン製造プラットフォームとして、3Dプリント供給業者のネットワークへのアクセスをエンジニアに提供している。アムステルダムを拠点とする同社は、2021年に米プロトラブズ社(Protolabs)によって買収されており、それは、分散型製造におけるさらなる市場統合を示唆する動きだった。同プラットフォームにおいてユーザーは、AM、CNC機械加工、射出成形、板金製造パートナーで構成されるネットワークを利用して、デザインをアップロードし、直ちに見積もりを受け、生産用のファイルを送信することができる。これまでにこのサービスを利用して、700万を超える部品が製造されている。ハブズ社は、年次報告書「3D Printing Trend Report」の中で、より堅牢なサプライチェーンと、ローカライズされたオンデマンド製造を、2022年の最も重要なAMトレンドとして挙げている。
パーカー氏はTCTに対して次のように語った。「積層造形が、少量生産向けのソリューションとしてさらに進化するにつれて、短期的な生産ソリューションとして、あるいは、3Dプリントに完全に移行するために、SLS(選択的レーザー焼結)やHP社のMJFのような技術を利用することへの顧客の関心は高まっている。EV(電気自動車)業界では、特に反復性と革新性が高く、デザインを素早く変更する能力を維持したいと考える企業において、多くの成功事例が見受けられる。海外から金型を調達するリードタイムが増加する中で、3Dプリントは、工作機械を製造する間の迅速な代替手段となる」。

3Dプリントの普及に向けた動き
3Dプリントが、サプライチェーンのレジリエンスを確保するための特効薬であるならば、3Dプリンターのメーカーはそれに気づいているのだろうか。
米フォームラブズ社(Formlabs)のサプライチェーンエンジニアであるメーガン・リウ氏(Megan Liu)は、グローバル調達チームに所属しており、同社製品のサプライチェーン管理を担当している。実はフォームラブズ社の複数の製品に、同社製プリンターで製造されたさまざまなコンポーネントが搭載されているという。
「3Dプリントの適切な適用先がサプライチェーンに存在することを、当社は確かに理解している。それと同時に、当社のプリンターの大部分が3Dプリント材料で製造されていないことから、3Dプリント部品を製品に使用することに限界があることも確かだ。最適なユースケースは、ジオメトリが非常に小さくて、当社のプリンターにすっぽり収まる部品だと、私は考えている」とリウ氏は述べた。
「フォームラブズ社に入社したのは、あらゆる種類の業界で3Dプリントがどのように利用できるかということに、大変興味があるからだ。フォームラブズ社が主張を実現していく姿に、私は心躍らせている」(リウ氏)。
調達チームの業務は基本的に、供給業者を見つけて、委託製造業者に予定どおりに部品を配送することである。例えば、フォームラブズ社が「Form Wash L」と「Form Cure L」というシステムをパンデミック禍に発表した時、同チームは、オハイオ州とマサチューセッツ州サマービル本社の材料生産施設におけるプリント生産を増加することにより、サプライチェーンの問題と材料の遅延を緩和することができた。
「当社が大変興味深く感じているのは、これが一種のバズワードであることは承知しているが、3Dプリントを使用することでサプライチェーンを少し分散化できるということだ。コンポーネントなどが不足した場合は、3Dプリントをその場で使用してコンポーネントをプリントすることにより、生産を継続することができる」とリウ氏は述べた。
顧客アプリケーションに変化が生じ、今ではプロトタイプだけにとどまらず、「Fuse」や「Form 3L」の工作機械や生産部品にまで適用されて、さらに多くの業界へと拡大していることに加えて、リウ氏によると、同技術の認知度と関心も、ここ数年で高まっているという。
「多くの要因がおそらく、その関心の高まりに寄与したと考えている。技術はこの数年間で著しく進歩して成長したが、それに加えて新型コロナによってサプライチェーンの問題が発生したことが、従来の製造方法に依存する多くの人々にとって警鐘になったことは間違いない」とリウ氏は述べた。
その警鐘を最初は聞き逃したとしても、米バイデン(Biden)政権が2022年春に発表した「AM Forward」イニシアチブは、それよりも大きく鳴り響いたに違いない。このイニシアチブは、SME(中小企業)のAM導入を支援することを目的に設立されたもので、シーメンス・エナジー社(Siemens Energy)、ハネウェル社(Honeywell)、ロッキード・マーティン社(Lockheed Martin)、GEアビエーション社(GE Aviation)、レイセオン社(Raytheon)などの大手メーカーが参加している。長年にわたってAMを使用してきたこれらの企業は、米国を拠点とする小規模供給業者から積層造形部品を購入し、トレーニングを提供し、積層造形製品の共通標準規格の策定と認証に携わることを約束している。これは大々的な取り組みであり、積層造形と分散型ローカライズ製造が、サプライチェーンのレジリエンスを確保するための手段であるという、デロイト社も確信を示していた認識を、強調するものである。
コッテリア氏は次のように述べた。「分散型デジタル製造の概念にかなりの確信を抱いており、コスト、品質、レジリエンス、柔軟性、アジリティ—以下、バズワードを並べてほしい—を支える形で、これらの技術を導入する方法を確実に把握して、そのための戦略を作成することが、サプライチェーンとオペレーションのリーダーにとって今後も引き続き重要になると、私は考えている。思うに、世界はその方向に進行しているので、戦略にこれを盛り込んでいないのであれば、時代に乗り遅れている可能性が非常に高い」。

サプライチェーン関係者との対話
上記の会話の1つ1つから、サプライチェーンにおけるAMの成功が、成功事例の共有と、変化を実現できる人々との対話にも依存していることが、ますます明らかである。AMに既に従事していたり、利用していたりする人は、オンデマンドと分散化のメリットに気づくはずで、パネット氏は、状況を進展させるためにAM企業は、サプライチェーン専門家との対話の場を設けなければならないと主張している。
「AMコミュニティがサプライチェーンの意思決定者の前に立って話す機会が、多ければ多いほど良い。販売を最大限に促進したいと思うならば、サプライチェーンの担当者が新しいアイデアに触れるようなイベントを、予定表に書き入れておかなければならないと私は思う」とパネット氏は述べた。
そうした対話の場を持つことによって、適切な言葉で会話することが可能になり、サプライチェーン上で業務を行う人々のニーズを理解し、AM業界の外側ではあまり知られていないかもしれないAMのメリットが、どこに有効に作用するかを伝えることができる。
「言葉は重要で、それが積層造形と先進製造業界全般の課題であると私は考えている」とコッテリア氏は述べた。「ここでは、デジタルスレッドやデジタルツインといった専門用語の使用について指摘するだけにとどめておく。それらは、積層造形を支持する上で非常に重要な単語である。プロジェクトやディスカッションを始めるときに、我々はしばしば、『この単語(任意の専門用語をここに入れてほしい)を使うとき、ここでの意味はこうである』と、文字どおり口にしている。なぜなら、人によって異なる意味をその単語に付与する可能性があるためだ」(コッテリア氏)。
パーカー氏は、そのメッセージを調達プロセスの初期の段階で伝えることが重要だと付け加えた。「知識となじみが全般的に欠如していることが、導入が進まない最大の理由である。当社のセールス及びエンジニアリングチームは、顧客と連携してそのニーズを理解し、最終的な製造方法に向けてその設計を進められるように支援するという、素晴らしい仕事を行っている。3Dプリントを設計時の生産方法として検討しないのであれば、製品設計サイクルの後の段階での製造方法の変更は、より困難になる可能性がある」(パーカー氏)。
それは、適切な人々に知識を周知することをも意味する。その技術を最終的に使用することになるエンジニアだけでなく、バリューチェーンに携わる担当者も、積層造形がどこになぜ適合するのか、あるいは適合しないのかを識別するために、そのメリットを理解しておかなければならない。
「確かに多くのエンジニアリング担当者が現在存在して、彼らはおそらくこの技術を最もよく理解している。(中略)サプライチェーンの人々と話をすると、彼らはスペア部品やコンポーネントのプリントについて語り、それは至極当然のことだと思う」と、リウ氏は最後に述べて、期待を抑制しなければならない部分があり、スペア部品という観点において3Dプリントに今できることについては、学習曲線が存在すると付け加えた。「そこに、知識のギャップが少し現れ始めていると思う。彼らは、アフターマーケット部品やスペア部品などに関連するすべての問題を、3Dプリントが解決してくれると心から期待しているためだ。その中間という観点での教育が、おそらくもう少し必要だと思う。壮大なソリューションに3Dプリントを利用することはできないとしても、過剰在庫を維持する代わりに必要な時にプリントするという、そこに至るまでの過程を支援するために3Dプリントを利用する方法は、間違いなく存在する」(リウ氏)。