Business/Market 詳細

デスクトップ3Dプリントで業界をリードするウルティメーカー社、新鮮な視点をもたらす新CEOが就任

October, 3, 2023--「私は挑戦が好きで、まったく新しいことを行うのが好きだ」

ローラ・グリフィス

Ultimaker社とMakerBot社の合併が正式に完了してほぼ1年が経過し、2022年の3Dプリント業界において最大規模の1つだったその合併によって誕生した、デスクトップ3Dプリントのスーパーブランドであるウルティメーカー社(UltiMaker)は、新しい最高経営責任者(CEO)を任命したことを発表した。

Ultimaker社(合併前の社名は’m’が小文字だった)の前CEOであるユルゲン・フォン・ホーレン氏(Jürgen von Hollen)氏が2022年9月に同社を離れた後、MakerBot社のCEOだったナダブ・ゴーシェン氏(Nadav Goshen)が新企業のCEOを務めていたが、今回同氏からCEO職を引き継ぐことになったのは、ミヒュール・アルティング・フォン・ヒューサウ氏(Michiel Alting von Geusau)である。ウルティメーカー社によると、ゴーシェン氏は新たな取り組みを追求するために退社するという。

ウルティメーカー社の監査委員会のバート・マーカス会長(Bart Markus)は、フォン・ヒューサウ氏を、「複数の技術企業における成長を促進してきた幅広い経験を持つ、経験豊富で結果重視のリーダー」と評している。しかし、さまざまな企業の買収や統合を成功に導いてきた経歴を持ち、直近ではEコマースサービス企業である蘭Docdata N.V.社のCEO兼最高財務責任者(CFO)として、米Ingram Micro Commerce & Fulfillment社への同社売却を率いた同氏だが、ウルティメーカー社のCEO就任をもって初めて、積層造形(AM)技術の世界に足を踏み入れることになる。それでも、AM業界の外側からの新鮮な視点は有利に働くと、フォン・ヒューサウ氏は考えている。

「私はまったく異なる視点を持っている」と、フォン・ヒューサウ氏はTCTに対して語った。「3Dプリントや、あらゆる種類のイノベーション、市場、材料に関する知識は、社内に豊富に存在するため、私がそこに知識を追加する必要はないと考えている。私が追加できるのは、まったく異なる市場における私の経験である。どのようにしてビジネスモデルを構築するか。どうすればそれを改良できるか。最初の1週間だけでも、私がまったく異なる価値を当社に追加できる箇所の例を、既に数多く発見している」(フォン・ヒューサウ氏)。

ウルティメーカー社の新CEOに就任したミヒュール・アルティング・フォン・ヒューサウ氏

9月4日にCEOに就任したばかりということもあり、フォン・ヒューサウ氏はそれらの例についてあまり詳しくは語らなかったが、Ultimaker社とMakerBot社が近年個別に進めていた両方の戦略を拡大して、3Dプリンターそのものだけにとどまらないエコシステムを構築することを示唆した。

「私がインターネット業界に入ったとき、この市場もまだ多くの課題を抱えて成長途上にあったが、クライアントと非常に緊密に連携して、それをさらに発展させていくことで、大きな成功を収めることができたと考えている。私がここに持ち込めるのは、それだと思う。3Dプリンターだけでなく、それよりもはるかに多くのものが必要だ。そして、市場の主要クライアントと連携しなければ、それを行うことはできない」と、フォン・ヒューサウ氏は説明した。

フォン・ヒューサウ氏は、同社に入った最初の週に、3Dプリントのすべてを網羅した初心者向けの短期集中コースを受講したと述べたが、「Cura」や「CloudPrint」などの製品が、ハードウェア、ソフトウェア、材料を網羅する包括的な3Dプリントソリューションを提供することによって、特により低価格のデスクトップ製品を提供する競合他社に対して、ウルティメーカー社がどのように差別化を図っているかを示す良い例であることを既に認識している。

フォン・ヒューサウ氏はその最初の週に、オランダからニューヨークに飛び、各拠点の社員と時間を過ごした。同氏は、将来に向けた計画を構想し始めるにあたって、「社員が何をしているか、どのようなビジョンを持っているか、将来をどのように考えているかを理解」するために、ウルティメーカー社の社員は「極めて重要」な存在であり、自分が最初に立ち寄るべき場所だと述べた。その次のステップは、「市場における問題を理解するための鍵」と同氏が考える、クライアントや再販業者に会うことである。

フォン・ヒューサウ氏は、学ぶ意欲に満ちあふれている。本誌との短い会話の中で、同氏はこちらの質問に答える度に、同じ数だけ質問をした。しかし、この技術の可能性にまったく疎いというわけではない。同氏が3Dプリントを初めて目にしたのは、およそ5年前で以前勤めていた企業でのことだ。この企業の携帯電話の修理工場では、さまざまなモデルに対応するために3Dプリントの治具や固定具が使用されていた。新しい携帯電話モデルが導入される度に、同社はそれに合わせて生産ラインをすばやく適応させることができていた。

「それに深く感銘を受けたが、もう5年も前のことだ。それから多くが変わっている」と同氏は述べた。

では、この技術は次にどこに向かうと同氏は考えているのだろうか。

「市場はより確立された状態へと移行していき、それは当社にとっても新たなフェーズになると私は考えている。そのフェーズではおそらく、クライアントとともにより漸進的に改良を加えていくことが必要で、より優れた、より信頼性の高い、より正確で高速なシステムにするために、システムを継続的に改良することが求められるだろう」。

同氏は、「より多くのクライアント」と連携しなければ、その成長は得られないという考えを改めて強調し、米フォード社(Ford)、米航空宇宙局(NASA)、仏ロレアル社(L’Oreal)などを、既にクライアントとして擁するウルティメーカー社が、新たに関係を築くことのできる企業は、数多く存在するはずだと述べた。

3Dプリンター「UltiMaker S7」

AM業界は、世界経済にこの数年間影響を与えている経済的不確実性の圧力と切り離されているわけではない。この業界も数多くの変遷を遂げ、2021年以降は大手企業の間のM&A契約の締結が相次ぎ、統合と再編が行われた。最も規模が大きく、おそらく最も劇的といえる、MakerBot社の少数株主である米ストラタシス社(Stratasys)をめぐる買収騒動は、未だ進行中である。このような騒がしい状況にあるこの業界に、なぜ今足を踏み入れるのか。

「私は挑戦が好きで、まったく新しいことを行うのが好きだ。それにワクワクさせられる。まだこの会社に来て1週間だが、3Dプリント、材料、加熱チャンバーについて既に多くを学んだし、学ぶことがたくさんある」と、フォン・ヒューサウ氏はその理由を説明した。

「さまざまな課題が市場に存在する中で、将来的に本当に成長するのはいつだろうか。自分はどこにいるべきなのか。そのすべてにワクワクしている。よし、これをやろうじゃないかと思った」(フォン・ヒューサウ氏)。

ウルティメーカー社は、2023年のRAPID + TCTで統合企業の新社名を発表した時に、UltimakerとMakerBotの両ブランドの既存製品を継続しつつ、さまざまな産業セクタに利益をもたらすために、今後どのように自社製品を販売するかという計画の概要も示した。製品群の間にはいくらか重なる部分があるため、「UltiMaker S」と「METHOD」シリーズの3Dプリンターはどちらも、製造、製品開発、その他の専門的なアプリケーションのサポートを継続するが、MakerBotブランドは、教育セクタのサブブランドとして運用を継続し、「MakerBot SKETCH」シリーズはK-12(幼稚園から高校まで)教育をターゲットとすることが決定している。

「当然ながら1つの企業として運営しなければならないが、その一方で、特定の市場分野を対象としたソリューションを展開することは可能だ」と、フォン・ヒューサウ氏は述べた。同氏は、同社が特にその分野をターゲットとした特定のハードウェアおよびソフトウェアソリューションを提供する良い例として、教育分野を挙げ、将来的に他の市場に対してもこれと同じことができる可能性を示唆した。

CEOに就任したフォン・ヒューサウ氏の最初の仕事は、技術を熟知し、成長のための機会とそこに至るまでの課題の両方を把握する社内外の関係者と、そうした重要な対話を続けることである。同氏は将来を見据えており、ウルティメーカー社の未来は明るいと信じている。その明るい未来にたどり着くための同氏の戦略はシンプルで、「競合他社よりも賢くなければならない」と同氏は述べた。