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3Dプリンティング市場展望

December, 16, 2021--編集部

日本では、「カーボンニュートラル」「グリーン成長戦略」などに向けた取り組みが議論されている。これに警告を発している代表株は、日本自動車工業会の豊田章男会長だ。3 月に行われた記者会見で同氏は、「今のまま2050年にカーボンニュートラルが実施されると、国内で自動車は生産できなくなる」と指摘している。自動車だけでなく鉄鋼など電力コストが重荷になる業種は、先行き国内生産を縮小して、海外投資を増やすことが予想される。

 今後、日本脱出に舵を切る製造業は増えそうだが、それでも国内に残る、あるいは残らざるを得ない製造業はどうするか。生産コストを可能な限り圧縮して収益を上げる道を探る必要がある。その1 つの方途が、3D プリンティング(積層造形)である。調査会社のレポートでは、COVID-19 パンデミック後の3Dプリンティング市場は、投資が増え、急成長すると予測している。
 以下では、主に米国のグランドビューリサーチ社(Grand View Research)のレポートを見ていくが、予測数字と市場規模に関してマーケッツアンドマーケッツ社( MarketsandMarkets)、フォーチュン・ビジネス・インサイト社(Fortune Business Insights)のレポートも参照している。さらに詳細を知りたい場合は、調査会社のホームページから無償でサンプルを入手することができる。

ほとんどの調査レポートが20%を超える成長予測
 各社の市場予測は年平均成長率(CAGR)20%を超える大幅な成長となっている。フォーチュン・ビジネス・インサイト社のレポートは、次のように予測している。
 「世界の3D プリンティング市場規模は、2020年に125億7000万ドルだった。COVID-19 の世界的な影響は前例がなく圧倒的であった。3D プリンティング装置は、パンデミックの中、全地域でマイナスの影響を受けた。
 分析によると、「市場は2017〜2019年の平均年成長と比べて、2020年に20.8%と大きく成長した。2021〜2028年にCAGR 24.0%成長で、2021年に152億6000万ドル、2028年には687億1000万ドルに達する見込みである。CAGR の堅調な上昇は、この市場の需要と成長によるもので、パンデミックが終わるとパンデミック前の水準に戻る」との予測である。
 マーケッツアンドマーケッツ社の予測では、「3Dプリンティング市場は、2026年には348億ドル」に達する。同社のレポートでは、「世界の3Dプリンティング市場規模は、2021年の126億ドルからCAGR 22.5%で成長して、2026年に348億ドルに達する見込み」である。
 グランドビューリサーチ社の「3Dプリンティング、シェア&トレンド分析」では、「世界の3D プリンティング市場規模は、2020年には137億8000万ドル、2021〜2028年にCAGR 21.0%成長する。世界的に2020年に210万台の3Dプリンターが出荷され、出荷数は2028 年に1530 万台に達する見込みである。3D プリンティング(3DP)における積極的なR&D、さまざまな産業からアプリケーションのプロトタイピング要求(特にヘルスケア、自動車、航空宇宙と防衛)が、市場の成長を後押しすると見られている。3DPの産業アプリケーションは、積層造形(AM)と呼ばれている。AMはソフトウエアと3Dプリンターを利用して、材料を層ごとに加えて3次元ファイルと言われる物体を形成する。関連する3DP技術は、そのプロセスを実行するために利用できる一連の技術から選択される。最新のステップは、必要性に基づいてさまざまな業種で、このプセスの導入に関与している」とレポートしている。
 現状の市場認識について各社ほぼ一致しているが、予測期間に差があるためCAGR は同じではない。しかしながら、20%を超える高成長を各社とも見込んでいる。
 以下、成長要因、技術、ソフトウエア、アプリケーション、業種、材料、地域市場などを見ていくが、各社の認識に大差ないので、グランドビューリサーチ社のレポートを紹介するにとどめる。

プリンタータイプ
 産業用プリンターセグメントが市場を牽引しており、世界の収益シェアは2020 年に76%を超えた。プリンタータイプをベースにし、さらに産業とデスクトップ3D プリンターに分けられている。デスクトップと産業3D プリンターセグメントの両方は、さらにハードウエア、ソフトウエア、サービスに分けられている。
 産業用プリンターは、自動車、エレクトロニクス、航空宇宙と防衛、及びヘルスケアなどの産業で広範に採用されており、高いシェアを占めている。プロトタイピング、設計、ツーリング(工作機械)が、これらの産業業種で最も一般的な産業アプリケーションの一部をなしている。従って産業用プリンターセグメントは、引き続き優位に展開する。
 一方、デスクトップ3D プリンターの採用は、当初、趣味や小企業に限定されていた。しかし今日では、家庭用にもますます利用されるようになっている。教育分野、学校、教育施設、大学なども技術訓練や研究目的でデスクトッププリンターを導入しつつある。
 小企業は特にデスクトッププリンターを採用し、事業を多様化して3Dプリンティング及び他の関連サービスを提供している。例えば、「ファブショップ」というコンセプトが米国では人気を博している。これらファブショップは、顧客が持ち込む設計や要件に従い、部品やコンポーネントのオンデマンド3D プリンティングを提供している。従って、デスクトッププリンターの需要は予測期間に著しく増加すると見られている。

技術展望
 ステレオリソグラフィセグメントが市場をリードし、2020 年グローバル収益の10%超を占めた。技術ベースでは、分類は、ステレオリソグラフィ、熱溶解積層法(FDM)、直接金属レーザ焼結法(DMLS)、選択的レーザ焼結法(SLS)、インクジェット、ポリジェット、レーザ金属堆積法(LMD)、電子ビーム溶解法(EBM)、デジタル光加工法(DLP)、薄膜積層法(LOM)などに分けられている。
 現在、ステレオリソグラフィ技術が最大シェアを維持している。それが、最も歴史がある従来型プリンティング技術だからである。ステレオリソグラフィセグメントは、積層造形工程に採用されている他の技術と比較して、2020年にシェア約11%だった。
 ステレオリソグラフィ技術に関連する優位性や運用容易性が、この技術の採用を促進しているが、産業専門技術者や研究者による技術の進歩や積極的R&D活動が、他の効率的で信頼度の高い技術にチャンスを与えている。
 FDMも、かなりの収益シェアを占めている。さまざまな3DPプロセスで同技術が広範に採用されているためである。DLP、EBM、インクジェット、DMLSも予測期間に採用が増加すると見られている。これらの技術が特殊積層造形工程に適用できるからである。航空宇宙&防衛、ヘルスケア及び自動車産業からの需要の伸びが、これら技術の採用に機会を開くと見られている。

ソフトウエア展望
 2020年、設計ソフトウエアセグメントが3Dプリンティング市場をリードし、グローバル収益シェア36%以上を占めた。ソフトウエアに基づいて3DP産業は設計ソフトウエア、検査ソフトウエア、プリンターソフトウエア、スキャニングソフトウエアに分けられている。デザインソフトウエアは、プリントされる物体の設計構築に使用される、特に自動車、航空宇宙と防衛、建設と土木業種である。デザインソフトウエアは、プリントされる物体とプリンターのハードウエアとの橋渡しをする。従って、デザインソフトウエアは、2020年、最大シェアを占め、予測期間に市場での優位が続くと見られている。
 スキャニングソフトウエア需要は、物体のスキャニングやスキャンした記録、スキャンした記録の蓄積トレンドの増加により、成長が見込まれている。物体の3Dプリンティングのサイズ、次元に関係なく物体のスキャン画像を必要な時にいつでも蓄積できるため、予測期間にスキャナソフトウエアセグメントの成長が促進されると見られている。
 スキャナソフトウエアセグメントは、スキャナの採用増加と相まって予測期間に急成長し、かなり収益を生み出すと見られている。同セグメントの市場規模は、2021〜2028年に最高CAGR 21.4%で拡大すると予測されている。

アプリケーション展望
 プロトタイピングセグメントが市場を牽引し、2020年に世界収益の55%超を占めた。アプリケーションベースでは、産業は、プロトタイピング、ツーリング、機能部品に分けられている。プロトタイピングセグメントは、2020年に最大シェアだった。これは、複数の産業業種でプロトタイピングプロセスが広範に採用されているためである。
 自動車と航空宇宙と防衛業種は特に、部品やコンポーネント、複雑なシステムを正確に設計、開発するためにプロトタイピングを使っている。プロトタイピングによりメーカーは高精度を達成し、信頼度の高い最終製品を開発することができる。従って、プロトタイピングセグメントは引き続き市場で優位を占めると見られている。
 機能部品には小さな接合部とコンポーネントを結合する他の金属ハードウエアが含まれる。これら機能部品の正確で精密な寸法は、機械やシステムを開発する際に、最も重要である。機能部品セグメントは、機能部品の設計と構築要求の増加に一致し、2021 〜2028 年にCAGR 21.5%で拡大する見込みである。

業種展望
 自動車セグメントが市場を牽引しており、2020 年世界の収益の23%超を占めた。業種ベースで見るとデスクトップと産業用3D プリンティングでは別の業種に分けられている。デスクトップ3DP の業種と考えられるのは、教育目的、ファッションと宝石、物体、歯科、食品及びその他である。産業3DP に考えられている業種は、自動車、航空宇宙と防衛、ヘルスケア、コンシューマエレクトロニクス、工業、電力とエネルギーなどで構成される。
 航空宇宙と防衛、ヘルスケア、それに自動車産業は、予測期間に産業用積層造形( AM)の成長に大きく貢献すると見られている。これらの業種に関連するさまざまな製造プロセスで技術の採用が活発なためである。
 ヘルスケア分野では、AM は人工組織や筋肉の開発に役立つ。これらは自然な人間の組織を複製して置換外科手術に利用できる。こうした機能は、ヘルスケア産業で3DP採用促進に役立ち、産業セグメント成長に著しく貢献すると予測されている。
 一方、歯科、ファッションと宝石、食品業種は、予測期間にデスクトップ3DPの成長に大きく貢献すると見られている。2020年に歯科業は優位に立っており予測期間で同セグメント優性が続く見込みである。イミテーション宝石、ミニチュア、アート&クラフト、衣服やアパレルも勢いづいてきている。

材料展望
 材料セグメントが市場をリードして、2020 年グローバル収益の48%以上を占めた。材料では、同産業はポリマー、金属、セラミックに分けられている。2020 年、ポリマーセグメントのシェアが2番目に大きかった。しかし、金属セグメントは、予測期間に優位性が継続すると見られている。金属セグメントは、次の6年で最高のCAGR 26%を上回るという予測である。
 セラミック材料を使う積層造形が極めて新しいことを考慮して、FDM やインクジェットプリンティングなどの3DP のR&D 増がセラミックAM需要を押し上げた。同セグメントは、予測期間にCAGR 23.3%を超える高い成長率が見込まれている。

コンポーネント展望
 ハードウエアセグメントが、市場をリードし、2020年世界の収益で63%を超えるシェアだった。コンポーネントベースでは、産業はハードウエア、ソフトウエア、サービスに分けられている。ハードウエアセグメントが全産業シェアの大半に貢献しており、予測期間でその優位性が続く見込みである。
 3DP ハードウエアコンポーネントセグメントは、さらにプリンタータイプ、技術、アプリケーション、業種及び材料に分けられる。ソフトウエアセグメントは、プリンタータイプとソフトウエアタイプの2 つに分けられている。サービスセグメントは、プリンタータイプだけで分離されている。ハードウエアセグメントは、最大収益シェアの維持が続くと予測されている。ソフトウエアセグメントは、次の6 年で最速成長が見込まれている。

地域展望
 北米は市場の先頭に立っており2020年にはグローバル収益シェア35%を超えた。世界の3DP 産業は地域ベースで、北米、ヨーロッパ、アジア太平洋(APAC)、南米、中東とアフリカに分けられている。北米が市場で優位に立っている。これは、同地域でAM が広範に導入されているためである。米国、カナダなどの北米諸国は、さまざまな製造工程で3D プリンティング技術の目立つ早期導入者となっているところがある。
 一方、ヨーロッパは地理的範囲に関して、最大地域である。同地域は、AM 産業プレイヤーの本拠地であり、AMプロセスの強力な技術的専門性を保持している。従って、ヨーロッパ地域市場は、2番目に大きな市場である。
 とはいえ、アジア太平洋は予測期間に最高CAGR が見込まれている。アジア太平洋におけるこの急速なAM 採用は、地域内の製造業における開発やアップグレードによるものである。アジア太平洋地域は自動車やヘルスケア産業の製造ハブとして出現してきている。急速な都市化と結びついたコンシューマエレクトロニクスの製造の拠点は、同地域の3D プリンティング需要増加にも貢献している。

主要なプレイヤー
 市場プレイヤーは、自動車、ヘルスケア、航空宇宙と防衛業種からの3Dプリンティングアプリケーション需要の伸びに応え、製造目的で3Dプリンティング技術を間に合わせることに集中している。主要プレイヤーは、AMを新しい製品開発プロセスに導入することで事業変革の可能性を把握しようとしている。米ストラタシス社(Stratasys )のようなマーケットリーダーは、もはやプロトタイピングを超えた3D プリンティングを活用して、スピーディーに完璧な製造業のバリューチェーンに貢献する方向に進んでいる。FDM やSAF( Selective Absorption Fusion)技術を特徴とする同社の革新的な3D プリンティングラインで、同社はAMを利用して、迅速かつコスト効果よく大型の最終部品を製造することができる。