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レーザ方式の粉末3Dプリンタでニッケル単結晶の造形に成功

June, 27, 2022, 大阪--国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)と国立大学法人大阪大学大学院工学研究科は、照射面強度分布が均一でビーム半径が大きい(フラットトップ)レーザを、ニッケル粉末に照射することにより、欠陥が少なく、結晶の方向がそろった単結晶を造形することに成功した。
 今回の成果によって、単結晶により製造できる部品の範囲が大きく広がり、航空機エンジンやガスタービンの耐熱材料のみならず、様々な単結晶材料への応用が切り拓かれると期待される。

これまで単結晶造形が報告されている電子ビーム方式では、装置自体が高価で、高真空が必要であり、運転コストも高いため、装置の普及率が低いという問題があった。一方、より安価なレーザ方式の装置では、レーザビーム照射面の強度分布が正規分布に従うため、固液界面における結晶成長方向を一方向に制御することが難しく、凝固時の大きなひずみに起因する結晶欠陥が導入されていた。従って得られる結晶は、異なる向きの結晶で構成される多結晶体となり、結晶粒界(結晶の粒の界面)が多く存在することが問題となっていした。

NIMSと大阪大学大学院工学研究科の研究チームは、フラットトップレーザを用いて粉末溶融時に形成する溶融池の形状を平面状に制御することにより、従来よりも欠陥が少なく(ひずみ導入が抑えられ)、結晶の方向がそろった単結晶の造形に成功した。破壊の起点となる結晶粒界をなくした単結晶は高温強度に優れる。新手法は凝固時に導入されるひずみが小さいため、凝固割れが抑制され、また、種結晶不要のため製造工程の簡素化の面でも有利である。

今回の成果は、他の金属や合金の単結晶の造形に応用していくことが可能。特に、航空機エンジンやガスタービンでは部品形状の複雑化や軽量化が進んでおり、耐熱材料であるニッケル基超合金を積層造形する需要が増えつつある。多結晶より高温強度に優れる単結晶の造形体実用化が期待されており、安価で普及率が高いレーザ方式による造形が可能になれば、世界的に研究・開発が加速する。

この研究は、NIMSのジョディ デニス エドガード NIMSジュニア研究員(九州大学大学院生)、北嶋具教 主幹研究員(九州大学大学院 准教授)、渡邊誠 分野長、および大阪大学大学院工学研究科の中野貴由 教授、小泉雄一郎 教授からなる研究チームにより実施された。

研究成果は、Additive Manufacturing Letters誌に2022年6月7日午前10時(日本時間)にオンライン掲載された。
(詳細は、https://resou.osaka-u.ac.jp)