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スタンフォード、最先端3Dバイオプリンティングを使い心臓を構築

May, 12, 2022, Stanford--スタンフォード大学、工学&医療学部、バイオエンジニアリング准教授、Mark Skylar-Scottのチームは、生細胞のペーストを心臓や他の臓器に変換したいと考えている。
 Mark Skylar-Scottによると、「小児科心臓疾患は、米国で最もよく見られる先天性欠損症の1つである」。「手術で子どもの寿命を伸ばす方法はあるが、活動の制限、不確定性に満ちた生活に苦しむ子どもが多い。真の治療には、損傷した、あるいは奇形の組織を置き換える必要がある」。

それこそが、Skylar-Scottが取り組むところである。同氏は、ラボで人工心臓組織を構築することで先天性欠損症にアプローチする新しい方法に取り組んでいる。

同氏によると、ディッシュで細胞を培養するよりもはるかに多くのことが必要である。ほとんどの既存技術は、一時的な「スカフォールド」に心臓細胞、あるいは幹細胞を播種する。スカフォールドは、多孔性、スポンジのような物質で、細胞を3Dで保持できる。その方法で研究者は、ラボ製の組織を作れるが、それは細胞の極薄層に役立つに過ぎない。

「わずか数セル厚のスカフォールドにするなら、細胞を適切な場所に置くことはできる。しかし、1㎝厚のものを成長させようとすると、適切な場所で組織が育つように細胞を播種するのは実に難しい。生き続けさせること、適切な栄養素を与える、血管系を作るのは非常に難しい」とSkylar-Scottは言う。人の臓器は、細胞のモノリシックボールではない。各々が、多くの細胞タイプの複雑な層でできており、信じられないほど複製が難しい3D構造となっている。 

オルガノイドのプリンティング
この現実をうまく回避するために研究チームは、臓器を成長させる大胆な新しい角度に取り組んでいる。先進的3Dプリンティング技術を使い、チームは、厚い層を一度に一層作り、注意深く設置されたブリックのグリッドから立ち上がるタワーのように適切なスポットに必要とされる、正確な細胞タイプを設置する。この種の構築法は、同氏によると、心臓のような複雑な組織を再現するにはうまく機能する。その場合、その機能には3D形状が極めて重要である。

それは有望であるかも知れないが、細胞の3Dプリンティングは、もっと深くて厄介な課題を抱えている。プラスチックフィラメントは、コンシューマ3Dプリンタが過熱して、無数の形に押し込めるものとは違い、細胞は生きているのである。Skylar-Scottによると、細胞は柔らかく、グニャグニャしており、不完全であり、イライラするほどに壊れやすい。

「一度に1つの細胞を設置しようとすると、肝臓あるい心臓のプリンティングは、数100年、数1000年かかる。例え1秒に1000細胞をプリントしても、臓器を作るには数10億の細胞を配置しなければならない。計算すれば、スケーラブルなプロセスには、それは、あまり成功しない」と同氏は言う。

代わりにSkylar-Scottと同氏のラボは、いわゆる「オルガノイド」という密集細胞群を配置することでプリンティングプロセスをスピードアップすることに取り組んでいる。グループは、遺伝的に操作された幹細胞を遠心分離機に入れることで、これらの塊を作る、つまりペースト状の物質が生成される。この合成物を使用すると、多数の細胞をゲル状に3D構造に同時プリントできる。「われわれは基本的に、これらのオルガノイドをプリントすることで、臓器の大規模構造を規定する」(Skylar-Scott)。

細胞プログラミング
しかし、幹細胞を所定の位置に配置することが第1段階である。それらがプリントされると、研究チームは、なんとかして、それらがより特殊な細胞タイプに分化するようにさせなければならない、これにより健全な臓器組織に類似した有効な細胞グループの多層クラスタが生ずる。これをやり遂げるために、Skylar-Scottは、基本的にその幹細胞をケミカルカクテルに浸す。

「われわれが開発している個々の一連の幹細胞は、特定の薬剤に反応するように遺伝子的に操作されていている。それらの細胞が、その薬剤を感知すると、それらは特定の細胞タイプに分化する」。ある細胞は、心筋細胞になるようにプログラムされている。心臓内で中核機能組織を形成する心臓細胞である。別のものは、間質細胞になるように指示されている、これは組織を結合させる。

Skylar-Scottは、プリントした組織を生物反応器でテストしている。これは、スマートフォン程度のサイズのコンテナで、プリントした細胞を生存させておくのに役立つ。その中で、同氏のチームは、プリントした臓器のような構造を成長させことができた。長さ約2インチ、径1/2㎝のチューブである。人体内部の静脈のようにこの微小なデバイスは、それ自身で「ポンプ」する、つまり収縮、拡大して、それ自体に液体を通す。

「このような組織をもっと多く開発できるなら、人の身体にインプラントできる何かを構築する中間点に来ていることになる。生まれつき単心室の患者にとっては、例えば、心臓には身体に血液をこ送り出す寝室が1つしかない。また肺は、心臓血管系に大きな負担をかけ、臓器に損傷を与える高血圧の原因となる。このような何かが、血液が心臓から出入りするのを助ける生体ポンピングデバイスとして機能する」とSkylar-Scottは説明している。

スケールアップ
Skylar-Scottが、既存の心臓に移植する機能チャンバーのような大きな構造をプリントすることは、まだかなり先のことだ。それを作ることは、現在のラボ実験「静脈ポンプ」の16倍以上のサイズのものを成長させることを意味する。そのサイズに近い何かを作るには、もっといいのは、新しい臓器全体を作るために、同氏のラボは細胞製造を極端に拡大する必要がある。

「われわれの世代では、拡大は、挑戦とになる」(Skylar-Scott)。いろんな意味で、細胞そのものに帰着するのである。

「現時点では、微小な何かをプリントするために十分な細胞を成長させるには一ヶ月かかる。また、非常に高価である。各テストが、数万ドルである。われわれは、それらをもっとロバストで安価に成長させるために細胞を設計する方法を考案する必要がある。そうして、この方法の実行し完成させる方法をスタートさせることができる。新しい細胞が所定の位置にあると、信じられないような進歩が見え始める」。
(詳細は、https://news.stanford.edu)