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ムーグ社の分散製造への 乗り継ぎ便

December, 16, 2021--サム・デイビーズ

航空宇宙市場でビジネス展開の新方法を創設

フライトの離陸から着陸までの12時間にどんなことができるか?楽しくない映画を数本見る、標準には達しない機内食で気持ちを奮い立たせる、乱気流で途切れる数時間に眠る、不良品に気づいて交換を発注する、その交換品を製造する、地上に戻ると直ぐにそれをインストールする?
今年初め、ボーイング777-300、オークランド( AKL )からロサンゼルス(LAX)に向かっていた航空機が壊れた客室部品のシミュレーションを中心に概念実証を行った。巡航高度に達すると直ぐに乗務員がオークランドのニュージーランド航空の保守施設にプレミアバンパーの部品について無線連絡した。これはシートとモニタの間にあって、スクリーンがデフォルト位置に押し戻されたときにシートに損傷がないかを確認するもので、実は交換が必要だった。
保守チームは、ニュージーランド航空のMRO プロバイダであるシンガポールの ST Engineering がアップロードした部品のデジタルカタログへのアクセスを利用し、交換品を発注した。ST Engineering は、飛行機が着陸することになっている最も近い認定3D プリ
ンティングシステムを特定し、ムーグエアクラフトグループを通して注文をアディティブ製造( AM )するように手配した。駐機場に停止している30 分以内に、その部品を交換し、飛行機は、予定されていた3 つの飛行を完了してオークランドに戻ってきた。
「それは、たびたび故障する部品である」とムーグ社のデジタルトランスフォーメーションマネージャーであるティム・アボット氏(Tim Abbott)、は、TCT 誌に話している。「その部品については物理的な在庫はなく、あったとしても、ロサンゼルス空港にはなかった。修理するためには44 日のリードタイムが必要であり、そのシートを使えなくしていたであろう三脚部品のために、約3 万ドルの収益損失になる」と話している。
ムーグ社は、10年以上もAM に取り組んでおり、プロセス制御、材料特性、装置間の一貫性を理解し始め、将来的には飛行の重要コポーネントに利用することも視野に入れている。同社は、主として、重要な精度コントロールシステムに焦点を当てており、特に航空機産業では、ミッションクリティカルなシステムが第1である。次に飛行制御である。約5 年前に、AM に関する同社の考えは、プロトタイピングや金型を凌駕し始め、その技術の他の利点に触手を伸ばしている。
「われわれは、将来の状況に身を置く、いわゆるシナリオベースの計画を実行した。価値が付加され、目標に到達するために埋めるべきギャップを特定して逆行するのである。これは商用的、軍事的側面であった。オペレータが、ある部品を決定的に必要としているシナリオに身を置き、 3Dプリンターを利用してその部品を使用時に製造することができる。
これによってリードタイムが飛躍的に削減され、運用の柔軟性が一段と高くなり、収益損失が減る」とアボット氏は回想している。
このシナリオに対するムーグ社の解答はVeriPart というシステムである。これは部品のデジタルファイルをカタログ化したプログラムであり、ニュージーランド航空は、故障した部品のシミュレーション中にもアクセスができる。VeriPartプログラムのこのデモンストレーションは、すべての部品サプライヤーに開かれた、デジタル市場を創るというムーグ社の目標の正当性を立証するものである。それは、特定の人にだけ許可された環境であり、その知的所有権は暗号によって保護されているので、アクセスできる者だけが部品についての情報を得ることができる。物理的な在庫の必要性はなくなり、遠隔地からモバイル機器を通じて、またショップフロアのワークステーションを通じて、パーツをオンデマンドでリクエストできる。その一方で、ブロックチェーン技術が、設計から製造、インストレーションに至るまで、そのプロセスのすべてのステップのトレーサビリティを保証する。
「航空機市場でビジネスをする新たな方法の創造である」とアボット氏は考えている。「われわれはこれをAM 製造に適合させた。それが現在、真に分散製造できると考えられる唯一の方法だからである。しかし、デジタル領域でわれわれができるすべてのことと来歴は、今、航空宇宙の従来のサプライチェーンに適用される。原材料プロバイダから、OEM へのサブコンポーネントを造る製造工場に移行する際に多くの人的関係と受け渡しがある。それは、プラットフォームインテグレータからオペレータまでを構成するかも知れない。ブロックチェーンを利用することで、われわれは、組織間で起こるそのような相互関係すべての生きた履歴を作ることができる。また、そのデジタル記録が存在するのである」とアボット氏は説明している。
それは、ペーパーワークを追い求めることを離れて、1つの部品のライフサイクルを理解するということである。コードをスキャンするだけで、オーバーホール、材料が出てきた製造関連の情報が、ほぼ瞬時に出てくる。会計情報や取引コンプライアンスも利用できるかもしれない。ムーグ社のVeriPart プラットフォームは、OEM、IP 所有者、サービスメーカーに理解しやすいので、真の分散ネットワークを可能にする関係が構築できる。
ブロックチェーンは、そのすべての要である。VeriPartシステムを機能させるだけでなく、ムーグ社は、それに依存して、ほとんどの組織が従来のサプライチェーンに染まっており、プロセスのすべての段階で規制されている分野で信頼を確実にする。故障のコストは非常に高いので、部品を受け取る者は、AMであろうと他のものであろうと、一般に膨大なペーパーワークにアクセスして、このコンポーネントが意図されたとおりに製造されたことを証明する。それは、ムーグ社が直面する課題であった。
「完全なデジタル領域で作業するので、これがムーグ社が意図した部品と同じであることを保証できるように運用するにはどうするか。それは、誰も操作したことがないので、その内部に設計上の欠陥があり、また最初の設計までデジタル的に戻る同じ来歴を持つのか」とアボット氏は疑問を投げかけ、同氏はマシンオペレータの役割を次のように仮定する。「何かをE メールで送る、あるいは通常のファイル転送で送るだけでは多くのギャップがそのままにされてきた。そのため、われわれは、分散製造ネットワークで造られたAM 部品に、どうすればデジタル的信頼を得るかを調べることになった」。
「われわれは約3年前に、偶然ブロックチェーンに気づいた。‘なるほどそうか’と、その瞬間に理解した。これは、目下のところ、デジタル領域で実際に信頼と来歴を提供する非常に素晴らしい技術である」。
このプロセスは、一連の実証により審査を受けており、ニュージーランド航空とST Engineeringで実行されたものと同じである。1つ1つがムーグ社の究極目標への小さなステップとなっている。同社は、重要な飛行コンポーネント供給のすべてに関わっており、故障時において、正に必要なときに提供できる機会を享受している。
AM 技術は、現在、航空宇宙産業で広範に実施するため、規制障壁を乗り越えようとしている。アボット氏の予測では、プラスチックの客室内装品は次の3年で一般的になり、5年から10年で金属部品に進化し、次に重要な箇所に使われるようになるだろう。忍耐が必要であるが、ムーグ社には、少なくとも同社のVeriPart プラットフォームで信頼を構築する時間がある。従って、AM 技術の準備ができたときには、分散製造も準備完了となっている。
「その時代が来つつあり、分散製造の技術もあるので、やりたいことは、この信頼環境の構築である」とアボット氏は締めくくる。「アディティブの成熟とともにそれが進捗していることを確認したい。その時が来れば、両システムとも共存し、市場における最高価値を実現できる準備ができているでしょう」。


図1 ムーグ社の積層造形中央工場。(ムーグ社提供)