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その魔法(と寸法の確認)をいつの日も忘れずに 「喜びが、日常を冒険に変える」

December, 15, 2021--積層造形(additive manufacturing:AM)に携わっている筆者が気に入っているものの1つが、造形中の機械を初めて目にした人の表情だ。粉末の層の中に像が浮かび上がるのを目のあたりにしたときの驚いた顔や、ノズルによって層が重ねられるにつれて物体が浮かび上がっていくのをガラスに鼻を押し付けるようにして凝視する様子といったら。その部品が自分自身で設計したものだとなれば、その驚きは倍増する。私が以前の役職で、インターンに与える最初の仕事として、名札を設計して、使い古されたUPrint(3Dプリンタ)を使ってそれを自分でプリントすることを選択したのには、そんな理由があった。

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ロビン・ダレン氏(Robin Dallen)、英アーク社(Arke Ltd)コンサルタント

自分で描画して、さっきまで画面の中にしか存在しなかった部品を、実際に手にした瞬間の気持ちを、人は決して忘れない。その気持ちこそが、AMに対する筆者の情熱に火をつけた大きな要因であり、筆者がこの業界に対する熱意を持ち続けていられるのは、自分の部品を初めて手にしたときに味わったあの喜び(敢えて、魔法と呼ばせてもらう)を、これまで決して忘れることがなかったからだ。

2008年、筆者は機械工学を専攻する大学生として、ドイツのミュンヘンで職業実習に臨んだ。与えられたプロジェクトは、半身不随の自転車競技選手のための矯正器具を再設計するというものだった。矯正器具は、レーザ焼結によって製造されることになっていた。筆者には、CAD設計から直接何かを製造するという概念がなかったため、ある日上司が、筆者がほんの2日前に設計した部品の試作品を手にオフィスにやってきたときは、本当に驚いた。まずはそのスピードに、2つめにその部品の完璧さに、3つめにそのサイズに度肝を抜かれた。その部品は、2ユーロ硬貨ほどのサイズだったのだ。画面上ではあんなに大きく見えていたのに。すぐさま自分の寸法を確認した。案の定、筆者は約30mm四方の試作品を作成していて、こんなにも小さくなることをまったく見落としていた。筆者がAMに関して学んだ最初の教訓で、それ以来他人にも伝えるようにしているのは、寸法を必ず確認するように、ということだ。

その翌月、設計した矯正器具を製造してくれるメーカーを訪れた。筆者はそのとき、生まれて初めてレーザ焼結機を目にして、畏敬の念を抱いた。それは、それまでの人生で見たものの中で、ずば抜けて素晴らしかった。粉末層から部品を取り出す作業をさせてもらったのだが、それらの部品がまさに私たちの設計どおりであることが、ただただ信じられなかった。子供のように驚く筆者は、同僚たちの笑いの種だった。「時間が経てば目新しさは消える。単に仕事の一部になるよ」と、そのうちの一人は言った。

プロジェクトが終わりに近づいた頃、その自転車競技選手は、私たちの設計した矯正器具を携えて北京パラリンピックに出場し、銀メダルと金メダルを獲得した。その成功の一翼を担った小さな部品に自分が関わったことを、筆者は飽きもせずに語り続けている。

それから10年が経ち、筆者はまだ、目新しさが消えるのを待っていると、声を大にして言うことができる。筆者にとって仕事は、より日常的なものになったと言えるかもしれないが、AMがその輝きを失うことは決してなかった。筆者は、AMの機械設備を「セクシー」だと言ってのける人間だ。その動作の仕組みや原理をはっきり理解しているにもかかわらず、どのようなAM機械の前に立っても、魔法だと思ってしまう。AMによって成し遂げられることが他にもまだたくさんあると考えると、ワクワクする。

この話をしたのは、熱意が物事を成し遂げるからだ。喜びが、日常を冒険に変える。誰かが胸を躍らせて「これを試したらどうなるの」と尋ねるときに、素晴らしいことが起きるのだ。だから、次にAMの機械を見たり、部品を手にしたりするときには、初めてそうしたときの気持ちを思い出してほしい。最初にAMを面白いと思った理由を思い出して、AMがありふれた日常になってしまって、何か素晴らしいものを見落としてはいないかと、自問してほしい。あの喜びを取り戻した先に何が見えるか、その目で確かめてほしい。あと、寸法の確認も忘れずに。

オリジナルコンテンツ:TCT Magazine International
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